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体調不良と痴話げんか ②

Author: 紅城真琴
last update Last Updated: 2025-05-25 20:25:35

渚と喧嘩別れのようになったものの、仕事ではいつも通り。

私は平常心を意識しながら、その日の午後も病棟での勤務についていた。

「樹里先生」

後輩研修医の千帆先生に呼ばれて顔を上げると、あっちと病棟センター前を指さしている。

そして、そこに梨華が立っていた。

「何、どうしたの?」

その場から声をかけた私に、クイッ クイッと手招きする梨華。

ったく。

昨日の晩はあんな悪態ついていたのに、今はニコニコと私を見ている。

一体どうしたんだろうと思いながら病棟センターを出たところで、私は梨華に腕を掴まれた。

「ちょっと、何なのよっ」

引きずられるように腕を引かれ、つい声を荒げてしまった。

「お姉ちゃん。お願い」

廊下の隅まで連れてきた梨華が、両手を合わせて私を拝む。

「はあー、また?」

私は呆れた顔で、妹を見た。

「ちょっと洋服を買い過ぎちゃって。3万でいいから貸して」

言いながら、お願いポーズは続いている。

社会人になり親からの仕送りがなくなってから、梨華は時々お金を借りに来るようになった。

梨華だってお給料をもらっているのにと思いながらも、私はつい貸してしまう。

「はい、3万」

財布からお金を出し、渡してしまった。

本来なら断わってしまえばいいんだと思うけれど、それができない。

生物学的な意味での家族がいない私は、仮にも家族と呼べる存在が愛おしい。

多少わがままでも、私にとっては大切な妹だからつい負けてしまうのだ。

「ありがとうお姉ちゃん。大好き」

ギュッと、私にハグしてから梨華は走って行った。

あーあ、またやってしまったと、私は肩を落とした。

その時、たまたま渚が目の前を通りかかった。

「何でも言うことをきくのが優しさではないと思うけれどね」

そんなこと、私にだってわかっている。

でも、負けてしまうのだ。

「関係ないでしょう。放っておいて」

結局憎まれ口を叩き、私は仕事

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